雨傘零音

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香水




















私はよく、おばあちゃんとお母さんに「可愛い」と言われた。

そうやって褒められるのが本当に嬉しくて嬉しくて、よくおしゃれをしていた。
その度に「可愛い」と、2人の優しい声で褒められるのが嬉しくて、何よりの自身でもあった。



でもある日、私に転機があった。
それは5年生の夏。
休日に、お菓子を買いに行こうとコンビニへ行った。

その時雑誌コーナーを通った時に、たまたま目に入ったのが、ショートボブにTシャツ、ズボンといういかにもボーイッシュな格好をした女性が表紙を飾っているファッション雑誌だった。


私はその自分らしい格好をした表紙の女性に心を打たれ、気付けばその雑誌を購入していた。




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今日は珍しく母より父の方が早く帰ってきた。


父が帰ってくるなり私は、今日買った雑誌を手に持って

「私もこんな女性になりたい」と言った。

するとさっきまで穏やかだった父の表情がどんどん厳しくなり、そして初めて私に向けて怒鳴った。


突然の事にわけも分からず呆然としていると、父さんに雑誌を奪い取られ、ゴミ箱に雑誌を突っ込まれてしまった。そして父はこう言うのだ。

「お前はせっかく可愛い女の子に生まれたんだから、女の子らしく生きなさい」と。


また気付けば私は自分の部屋の姿見の前に立っていた。


肩甲骨辺りまでの髪をポニーテールにして結んだ髪に、紫色のスカートに服。

お手本のような【女の子みたいな服装】。



父にさっき言われた【女の子らしく】という言葉が脳裏に蘇る。






【女の子らしく】はいいのに、【自分らしく】はダメなの?


【自分らしさ】は殺さなきゃなの?許してくれないの?


分からない、分からないよ。














数分後、


私の右手に握られてるのは、開きかけたハサミに、そのハサミに絡まっているのと辺りに散らばっている髪。


私は姿見の前にしゃがみ込んでいた。


姿見に移るしゃがみ込んだ私の姿は、少しだけ長めでガタガタとしたショートボブの姿。




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最初に私のこの姿を見つけたのは、祖母だった。私の部屋を開けた途端この惨状だったからさすがにびっくりしたのだろう、すぐ母に連絡をしていた。



それから間もなく、母が家に到着した。


母は私の姿を見てびっくりはしていたが、怒ることも無くただ抱き締めてくれた。





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母side


仕事中、おばあちゃんからひとつの連絡が入った。


それは、娘が少しだけ大変なことになっているとの事だった。



私は上司に言って、直ぐに家に帰った。





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リビングには誰もいなかった。もしかしたら自分の部屋にいるのだろう。そう思いリビングから出ていこうとした。


そしたらゴミ箱の奥底に何かがあった。


取り出して見ると、それはファッション雑誌だった。
表紙にいるのはボーイッシュな格好をした女の人。


……まさかと思い私は娘の部屋へと急ぐ。



そしたら案の定、姿見の前に座り込んでいる娘の髪は、ショートボブ程の長さになっていた。



………今日はいつもより、お父さんが早く帰ってきたから、これを見せたら捨てられてしまったのだろう。だいたい想像が着いてしまった。


でも私は娘のしたことを否定をしないし、口出しもしない。その思いを込めて私は娘を抱き締めた。




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あれから2年後の中一、私の髪は少しは長くなったが、格好はボーイッシュのまま。



それから、おばあちゃんは病気を患ってしまい、寝たきりの状態になっしまった。


私はおばあちゃんのことが、大好きだから毎日のようにおばあちゃんの元へお見舞いに行っていた。


ある日、おばあちゃんの容態か急変したらしい。私とお母さんはすぐに家を飛び出して病院へ向かった。


お母さんたちは話し合うことがあるらしく、おばあちゃんと一緒に待っててと言われた。


2人きりになった病室に、静寂が訪れた。

何か話す話題はないかと必死に考えていると、おばあちゃんが急に私の手を握った。

びっくりして思わずおばあちゃんの顔を見ると、その顔はとても穏やかで、優しいものでした。


そしておばあちゃんは私にこう言いました。


「今の自分らしく生きているあなたはとても素敵で、綺麗で、それでいてとても可愛いし、どんなあなたも好き。
でも忘れないで、あの日より前の可愛かったあの時のあなたもあなたよ。あなたは何になろうと、私にとっては可愛くて可愛くて仕方がない孫だよ。」と。


それを最後におばあちゃんは、静かに息を引き取りました。




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おばあちゃんが無くなってから、私は再度可愛い服を身につけるようになった。


短かった髪も前の肩甲骨辺りまで伸ばして、ポニーテールだけだった髪型もハーフツインやツインテール、ハーフアップなど色んな髪型でするようにもなったし、スカートにも足を通すようになった。

更にはあまり好きでない香水も着けるようになった。




【嘘をつく時にはほんの少しの真実を混ぜると、
      その嘘はより真実味を増してくる。】



どこかで聞いた、そんな言葉。



きっと、今の私に一番似合う言葉だろう。


嘘の部分は、この身なりをしていて、そして嘘をついている私の姿。

真実の部分は、この香水が好きでないという本心だろう。



でも私は、これが嘘だとは信じない。






何故なら、大好きなおばあちゃんが好きと言ってくれた私だから。

8/30/2023, 5:26:27 PM