星が溢れる
『隣の星のあなたへ』
靴箱を開けると独特な字体の手紙が落ちてきた。
もちろん、信じたわけではない。ただどうしようもなく現実が退屈だったから、暇潰しに返事の手紙を書いた。
『不思議なことに宇宙人も日本語を喋るんだね。』
一通目は、ノートの切端を千切って靴箱に入れた。
二通目は、二言。三通目は三言。
そうして手紙の枚数が増えた頃、知らない下級生に声をかけられた。
「あの、その手紙の子、普通の子ですよ笑」
小馬鹿にしたような口端に苛立ちを覚えて、靴箱を乱暴に閉めた。
「そう。ところでなんで君は手紙のこと知ってるの。」
目も合わさずに問う。
「いやだなぁ、怒らないで先輩。本人から聞いたんですよ?」
「あっそ。」
別に本気で信じていたわけじゃない。
嘘か真かなんて、この際どうでもよかった。
ただ、君と私という特別な関係に第三者が関わることが許せなかった。あの後輩や君にとっては簡単なことかもしれなかった。それが途轍もなく私を苦しめる。
それからしばらく、手紙が来ることはなかった。
私の中で君が薄れ、退屈な日々が何事もなかったかのように帰ってきた。
ゆーきをつばさにこーめてー きぼうのかぜにのりー
最後の手紙も、ノートの切端だった。
『今夜、星を溢すから見ていてね。』
なぜかわからないけど、インクが紫色に滲んだ。
天気予報は大雨。厚い雲に覆われた空はびくともしない。でも、私は祈った。星が見たかった。君のいる星を、君がこぼした星を。
ポツリ、雲の隙間に光るものがあった。
「……星だ。」
雲が裂けていく。無数の星が、光る、光る、光る。
その時、本気で生きていてよかったと思った。君と出会えてよかったと、思った。
『隣の星の君へ。いつか会えるなら、たくさんの星を抱えて行きます。ちゃんと待っているように。』
3/15/2024, 4:23:30 PM