となり

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 真っ青な空の下、快活な陽射しを浴びながら頭上へ手を伸ばす。あそこが目標地点。本当に行けるなんて露程も思っていないけど、冷えた朝の空気と希望を胸いっぱいに吸い込んで心の中で企むくらいは許してほしい。
 真下にはひしめく雑踏。人生なんて大仰なものを掲げて、背負い込んで、時に引っ張られて歩むごみ達。昨日まではあのごみの一部だった。けれど、今日はその一歩先に進める。高揚感に打ち震えて鳥肌が立つ。これがいわゆる武者震い? 歴史上のお偉いさん方はこんな気持ちだったんだろうか。別に興味も無いけど。

「気持ちいい……なあ!」

 両手を大きく広げて大の字に身体を伸ばす。それから、反動をつけて眼前の柵に飛び乗り頼りない足場に身を預ける。
 陽の光は相変わらず平等に降り注いでいる。天上はこの光のように平等な世界なのかな。本当に平等だったら、それはそれで気持ちが悪いけど、それでも。こんな馬鹿みたいな空想論に縋らなければごみに紛れることすら出来なかった。
 自然と俯きがちになる顔を無理矢理起こし歯を食いしばる。ずっと、最期は笑顔と決めていた。次へのステップアップは軽く、楽しく、朗らかに。ありがとうなんて言ってやらない。別れの挨拶も必要ない。今度は「人でなし」の生を歩みたい。人生なんて、いらな──


#さよならは言わないで

12/3/2024, 6:46:07 PM