この間までの酷暑はすっかりなりを潜め、夜にはシンと冷え込んだ空気が張り詰める。
カラリと部屋の障子を開けて縁側へ出てみれば秋の風が吹き込み体に沁みる、薄い夜着では心許ない。
体を縮こまらせて立っていれば、湯汲みからの帰りであろう同級生と出くわした。
「や、今日はやけに冷え込むねぇ」
「そうだね、夜着一枚じゃあ今夜は寝むれなさそうだ、丹前を出してくるよ」
そう言って彼は自室に戻っていく、それを横目で見送り、自分は床に腰掛ける。
今宵の空にはくり抜かれたような月が昇っている。
明日は実習がある、この様子だと雨の心配はなく秋晴れとなるだろう。
「…冬が来るな」
もうすぐ霜の声がし始めるだろう、そろそろ湯たんぽも準備した方がいいかな?とこれから厳しくなる寒さへ思い馳せる。
長い冬が明け、春が訪れれば私たちはこの学園を離れる。
それまでのほんの短い間、何が起こるのだろう、何を為せるだろうと慮る。
これから先、この戦乱の世を生きていく私たちはこの学園での出来事を忘れることはないだろう、それ程濃く鮮やかに彩られた沢山の記憶(思い出)がある。
その一つ一つを胸に抱いて、生きていくのだ。
だいぶ冷えきってしまった指先を擦りながら重い腰を上げて自室へ向かう。
既に敷かれている布団を見やれば別室の彼が用意してくれたであろう丹前があった。
普段何かとこの職業には向いていないなどと言われている彼だが、こうして気配も足音もなく置いて行った(私が思い耽っていたというのもあるが)彼は既にその作法が身に染みついてしまっているらしい。
有難く用意されていたものを羽織り、布団へ潜り込む。
カタカタと風に揺れる障子を子守唄に目を閉じた。
《秋風》と冬の訪れ
11/14/2023, 1:41:50 PM