その旅は、希望に満ちた航路になるはずだった。あれがしたい、これがしたい。やりたいことも、願いも抱えきれない程に詰め込んで。
……けれど現実という嵐が吹き荒れ、魂を引き裂くような雷鳴が自我を塗りつぶしていく。あれぼど彩り溢れた世界は、いつの間にか白と黒……よくて灰色へと変貌した。鮮やかさは消え失せ、見ても見なくても変わり映えしない日常へと堕ちていった。
どうして、どうして、どうして。
頭の中に自問の声が響き続ける。答えは帰ってこない、だってその答えにはとっくに気がついているのだから。この自問に意味はなく、そして価値もなく甲斐もない。
気がつけばそこに残ったのは希望も、気力も失せた憐れな抜け殻だけだった。ただただ日々は過ぎていく、頭のなかで自問の声は鳴り響き続ける。ああ、うるさい。なんて、耳障りな声。けれどもう、叫び返す力も残っていない。こうして無為な魂は、時間の砂にすり減らされていくばかりなのだ--そのはずだった。
「なんだ、やればできるじゃないか」
声が聞こえた。走ろうとすればもつれる足も、ゆっくり、ただゆっくりと進めばもつれることもない。周りにいた仲間たちは、もうどこにもいなかった。追い抜かれていったのかもしれないし、あるいは置いてきてしまったのかもしれない。
世界には、自分だけが残った。
けれど、不思議とさびしくはない。顔を上げると、少しまた少しと色彩を取り戻し始めた世界があった。
惨めでもいい--そうだとも。
哀れでもいい--そうだとも。
情けなくてもいい--そうだとも。
みっともなくてもいい--そうだとも。
ここで終わっても--そうはいかない。
どうやら、生きているなら悪あがきは出来るらしい。口元に懐かしい不敵な笑みが浮かぶ。錆び付いたマストに、ボロボロの帆が張られた。色のない世界に、目を細めるほどの碧が広がった。
4/19/2024, 3:45:28 AM