契約により、彼の記憶は拭い去られた。
何も覚えていないのではない。
なかったことになったのだ。
いや、彼にとってもこの時間にとっても、それは起こったことではない。起きることもない。
完全な消失。
だから、彼の反応も当然なのだ。
『若い身空で通うようなところではないよ』
『君は聖職ではないのだろう? どうして――』
『祓魔の術は浄化ではない、均すだけなんだ。……君は賢いからわかっているはずだよ、姑息な手段にすぎないと』
それでも
それでも
どれほどあなたに訝しがられても、
『育ての親にもらったのです』
――頭の中まで、手放せはしない。
【いつまでも捨てられないもの】
8/17/2023, 11:29:49 PM