私の質問を聞いた途端、彼は馬鹿にしたように笑い出した。
「ちょっと!本気で聞いてんのになんで笑うの」
「だって、そんな、ドラえもんみたいなこと言うから」
タイムマシンがあったらどうする?朝ご飯を2人で食べながらなんとはなしに聞いただけなのに。彼は私の顔を覗き込んできて、そして、声を出して笑った。まだ寝ぼけてんのか、とまで言われて。ばっちり変な奴扱いをされている。でもそんなことでめげたりしない。
「それで、どーなの?行きたいとことか時代とか、ないの?」
「まだそんなこと言ってる」
彼は私の相手を真面目にせず、食べ終わった皿をキッチンへ運び始めた。こんな“もしも”な話を嫌うことくらい分かってる。でも、たまには良いじゃないか。最近毎日のように帰りが遅いから、たまにはこーゆう、息抜きになるような話もいいかなって思っただけなのに。
「過去にも未来にも興味ないかな」
冷めた声で彼が言った。水を出し、2人分の皿を洗い出す。
「過去のキミを見に行っても、俺の知らないキミがいるだけだし。未来を先回りして見たら、これからの俺たちの楽しみが半減しちゃうだろ」
だから今がいいんだよ。今この瞬間が。
私は何も言えなかった。そして、最後にごちそうさまを付け加えて彼は着替えに寝室へ向かおうとする。その後ろ姿に急いで追いつき飛びつく。
「ぐえ、苦しい」
離れろ、って言われたけれど聞こえないフリをしてやった。さっき馬鹿にした仕返しなんだから。
過去を見てもその頃には戻れない。創れるのは未来だけ。でもその未来を、先回りして見に行くくらいなら、何も知らないまま貴方とじっくり創っていきたいよね。
だから、もしもタイムマシンがあったとしても。私たちは使わない。
7/23/2023, 4:36:44 AM