【部屋の片隅で】
ひくりひくりと声を殺して、君が泣いている。泣かないで、私がいるよ、そう君の頭を撫でてあげたくても、透明な私の手は君の身体をすり抜けてしまうのだ。
ごめんね、ずっと守るよって言ったのに。一緒にいるよって約束したのに。君の左の薬指にはめられた銀の指輪が心臓に痛い。私が死んでもう三年になるのに、君は今でも私が贈った指輪を纏い続けている。
朗らかで、賢くて、決して折れない心の持ち主……そんな君はただの取り繕われた幻想に過ぎなくて、本当の君が寂しがり屋の愛されたがりだってこと、私だけは知っていたのに。
(お願いだから、もう。私のことなんて忘れてよ)
一人きりになった瞬間、堰が切れたように涙をこぼし始める君のことを、だだっ広い部屋の片隅で見守り続けることしか、今の私にはもうできないのだ。
12/8/2023, 5:59:44 AM