未知亜

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ㅤ平日のフードショップはがら空きだった。向かい合って座った私たちは、キリンの描かれた紙コップに刺さったフライドポテトを齧る。歩きどおしで一時間。
「思ったより楽しいね、動物園」
ㅤ彼女の言葉に私はホッとした。
「だよね。私も、ここまで楽しめるとは思って無かった」
ㅤこういう時は、自分の家でもない、ひとりでもないところに居た方がいいんだよ。
ㅤそう諭されてやってきた場所だった。「どこ行きたい?」と訊かれて、あの人ともひとりでも来たことのない場所が浮かんだ。ここを選んだ理由はただそれだけだったから。
ㅤカウンターから「お待たせしました、パンダだんごの方ー!」と声が掛かる。立ち上がりかけた私を制して、彼女が背を向ける。運ばれた軽食の可愛らしさに私は声を上げた。
「八回目」と彼女が笑う。
「なにが?」
「あんたが今日『わぁ!』って言うの」
ㅤきょとんとする私。
ㅤ割っちゃったら勿体ないね、と、彼女は湯気を立てる団子にフーフー息を吹きかけた。私が猫舌だと知っているから。
「そういうところ、わたしは好きだよ。もっと言わせたくなる」
ㅤ勿体ないね。本当に勿体ない。
ㅤ彼女が静かに繰り返す。「何が?」と訊き返す前に、湯気の引きかけた焼き団子が、目の前に差し出された。
ㅤ思わず口を開きかけたけど、思い直してお菓子を奪い取り、まだ熱さの残るそれに思い切りかぶりつく。耳の奥がなぜかキンとした。


『わぁ!』

1/26/2025, 12:55:46 PM