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「もう、終わりにしましょう。」

口をついて出た言葉は、思っていたよりも私の中の熱を上げた。こんなにも私の口に馴染む言葉が今までにあっただろうか。告げられた方は、打てば響くような、そんな回答が出てくる訳もなく、ただじっと私の方を見ていた。薄黄色のカーテンだけがこの世界で動いている。時間が止まってしまった世界で2人、瞳だけで会話をする。この世界では言葉も不要で、飾ったような偽善も、優しい嘘も、残酷な現実だって要らなかった。ただ、語らずとも通じるこの感覚だけがこの世界に必要なものだった。

ゆったりと流れる時間の中に、チャイムの音がこだます。それを合図にこの沈黙に我慢できなくなったのか、向こうの方から手を取って走り出した。私はただ、されるがまま。どこに行くのか、何をしようと言うのか皆目見当もつかなかったが、ただ漠然と切って素敵なところなんだろうなと感じていた。
過ぎる風景が走っている速度とあっている気がしなくて、世界の速さに目眩がした。階段を駆け上って、教室をぬけて。扉を開けた先に拡がった景色が、あまりにも壮大で、私たちなんか、自分が思っているよりも大きな存在では無いのかもしれないと思わせてくれる。今私たちがやろうとしていることさえも、この世界では本の1行にも満たない、小さな行動かもしれないと苦笑をこぼすほどに、広がる空は広く、優しく、そしてやっぱり無慈悲だった。

沈みかけている紅鏡に背を向けて、鮮烈なオレンジ色の中に佇み、少しの間だけ世界に反抗しているような、そんな感覚を味わう。

「やっぱり怖くなってきた?」

そう言って私の顔を覗き込んでくる。揶揄うような口調が愛おしくて、もう少しこの声を聞きたいと思えてきた。
それでも、愛おしく思えば思うほどに私たちはこの世界で生きることに向いていないことが手に取るようにわかってしまう。大事に大事にされて、箱庭で生きるよりは、きっとこの世界から解放されて別に生きた方が私たちに向いている。箱庭の中では上がる槍玉を避けることは出来ないのだから。

これは反抗だ。幼稚で、それでもただひたすらに無垢で、皮肉を込めたこの世界への小さな小さな反抗。
手を取って、フェンスの傍に立つ。

「やっとおわれる。」

ぽつりと呟いた言葉ににっこりと微笑みを浮かべ、箱庭の外に1本足を踏み出した。
夕暮れと夜空はこの世界の境界線を彩って、最後の景色には相応しいものだった。

7/16/2024, 9:59:54 AM