俺の恋人は、人の視線が苦手だ。
人に見られるのはもちろん、人と目を合わせることが大の苦手で、見透かされているとか、ネガティブな印象を持たれているような感じがして、すぐに目をそらしてしまうらしい。
俺も、出会って初めのころは本当に目を合わせられることはなく、対面で話していない時も顔はずっと下を向いていた。
でも、半ば強引にだったが交際を初めて、一緒に過ごすうちに、少しずつだが、俺と一瞬目が合うようになったり、ちゃんと顔が前を向いたりするようになっていった。
それを褒めると、「まだお前だけだよ」と控えめに言われた。何度も褒めても、返答は同じだった。
そんな恋人が、今日は長いこと俺と目を合わせていた。「今日は長いな」とだいぶ遠回しに褒めると、「…お前だけだよ」とはにかみながら言われた。
「…」
驚いて目を見開く。
「まだ」が抜けた。
気づかぬうちに、この男の唯一になっていたという、些細だが大きな変化が、堪らなく嬉しかった。
きっとこの調子で克服していけば、この「唯一」はすぐに終わるだろう。
けれど今だけはと、この気持ちが伝わるように、何よりも愛おしいその瞳に、瞼越しにそっと唇を落とした。
【君の目を見つめると】
4/6/2024, 11:04:40 AM