Yushiki

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 1年後にまた会いに来る。
 そう言って友人と固い握手を交わした俺は、放浪の旅に出た。着のみ着のままあちこちの諸国を巡り、同じ場所にいたら味わえないような未知なる体験をして、ひと回りもふた回りも大きくなって帰ってこようと意気込んでいた。

 けれど、やる事なす事どうにも味気ない。毎日が無味乾燥していて、1日が過ぎるのはこんなにも長かったかと、あまりにも遅い時間の流れがいつしか億劫になった。

 そうして気付いたら、俺は元いた場所に戻ってきていた。別れを告げたはずの友人が、帰って来た俺にすぐに気付いて、「おい、こら、どうしたんだ。約束の1年はまだ先だろう」と、不思議がりながら問い掛けてくる。どうやら1年どころか、俺が旅に出てまだ半年くらいの月日しか経っていなかったらしい。俺はその事実を知ったのと、友人の声を聞いたのとで、まるで夢から覚めたように我に返る。
「あれ? もう1年くらい経ったと思ってた。お前がいないと毎日が退屈でさ、時間が経つのも長く感じたからそのせいかも」と、ようやく俺は味気なかった日々の理由を理解した。
 俺の様子から何かを察したらしい友人は、呆れたように「バーカ。なら旅に出るなんて言って、俺を置いていくなよ」と、叱りながらもどこか楽しげに苦笑していて、あ、そうか、俺が今よりも大きくなりたいと望んだのは、この友人の懐の深さに憧れていたからだったんだと悟る。

「・・・・・・だって、俺、お前みたいになりたかったんだよ」と、意図せず本音をポロリと漏らせば、「俺だって、お前みたいになってみたかったよ」と、友人が返してくる。

 その後に友人と共に過ごした半年は、本当にあっという間に時間が過ぎた。

 俺はふとあの日を振り返る。
 1年前の俺と今の俺とは、はっきり言って然程変わっていないだろう。けれど、1年前のあの旅が、きっと俺にかけがえのない大切なことを教えてくれたのだと、それだけは胸を張って確信できた。



【1年前】

6/17/2023, 4:33:26 AM