hashiba

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どす黒い雲の下でさらに黒い傘を差す。ただでさえ雨で視界不良、顔を隠して距離を取るのに好都合だ。水滴がビニールを弾く音も良い。周囲の雑音を聞かずに済む。そんななか、当たり前のように一つ薄い屋根の下に入ってきたのがこの人。聞き馴染みすぎた声に雨音が掻き消える。肩が濡れないかと気にかければ、こうすればいいと言わんばかりに腕を組んで密着するから暑苦しい。傘を忘れたのなら、すぐそこのコンビニで買わせることもできたのだ。靴下がずぶ濡れだ、などとぼやいていたら通り過ぎてしまった。その割には何だか楽しそう、とこの人は言う。目と鼻の先ほどの距離で見つめられている。楽しそうなのは、あなたの方こそ。浮かんだ言葉は声に出さず、屋根の外へと放り投げた。


(題:降り止まない雨)

5/26/2024, 9:50:46 AM