あお

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 青を司ると書いてセイジ。いつ聞いても落ち着く名前だと思う。本人は気に入ってないみたいだけど。
「どうせ司るなら星とかの方がカッコイイだろ」って、頬をかきながら、照れくさそうに言っていた。自分の中にある“カッコイイ像”を語るのが恥ずかしいのか、私から目を逸らした。
 どんな青司だって、私にはカッコイイ。田舎の緑の中に、一際映える青を感じさせる人だ。

 ずっと隣にいた青司は、都会の大学に進学した。私は地元のコンビニでアルバイトをしている。
 青司と違って勉強は苦手だし、夢も抱かなかった。それだけ、青司の隣がしっくりきてたとも言う。疑うことさえしなかった。私の隣に青司がいない景色なんて。

 青司が進学する前に告白しておけばよかった。
 青司なら絶対にオーケーしてくれるって自信があった。だけど、チャンスを逃した今は、断られる未来しか見えない。
 青司が都会に出てから、一度も連絡がとれていない。忙しいかもしれないし、勉強の邪魔もしたくない。建前の理由はそんな感じだけど、本当のところは今の青司を知るのが怖いだけ。
 恋人ができた。その一言を告げられたら、私はこの先を生きていけるの?

 アパートの前に青司が立っている。二度見してしまった。
 少し髪が伸びたような気がする。別れる前は短髪だったのに、今は前髪が目にかかるくらい。それと、かなり痩せたように見える。
「青司、だよね。久しぶり」
「うん。久しぶり」
「痩せたね」
「お前のために痩せた。って言ったらどうする?」
「……頼んでないよ」
「そうだな」
 頬をかきながら目を逸らす。別れる前と変わらない仕草に、思わず笑みがこぼれた。
「何しに来たの?」
「呼びに来た」
「えっ」
 ――それって、都会に? 青司が住む街に、私も行っていいの?
 喉まで出かかる本音を飲み込む。沈黙を選択したのは、言ってはいけない気がしたから。
 私の腕を強い力で引く青司の背中が、何故だか怖くて、手を振りほどきたい。
「ねぇ青司。どこに行くの?」
「ついて来ればわかる」
「そうかもしれないけど、先に目的地を知りたいよ」
「俺を疑うのか?」
 青司はこちらに振り向かず、ただ歩き続ける。恐怖が場の空気を支配した。私は青司の力に逆らえず、どうすることもできない。でも、言わなければいけない。
「離して。私は行かない」
「そっか」
 するりと抜ける青司の手は、泣きそうになるほど冷たくて、寂しさを帯びていた。
 青司の背中が少しずつ小さくなる。一度も振り返ることのない体が、私の視界を滲ませる。こうしてまた、私に青を刻み込むのだ。悲しみの青を。

 頬にあたたかいものが伝う。触ると指先が濡れた。これは……涙か。
 青司と会う夢を見ていたようだ。その証拠に、私は自室のベッドで仰向けに寝ている。視界に映る天井の白は、青司の濃さとは違う。だけど、記憶の海に飛び込めば、いつだって会える。青く深く、青司を思い出せるのだ。

6/29/2025, 8:49:07 PM