あなたのようにホームランを量産する秘訣はなんですか
と、たびたび同じような質問を受けるが、私の答えは実に単純である。
ボールを人生で最も嫌悪しているニンゲンの顔と思うのだ。
彼奴の顔面にバットを喰らわせてやる、と、心から決意が定まれば、そのための身体の動かし方は本能が導いてくれる。もはやそこには投手との駆け引きは存在せず、ボールの軌道や緩急も問題ではなくなる。
あのクズの鼻先から頭蓋を砕き破り、脳髄を発散させる一振りを完璧にイメージできたならば、数秒後には白球はスタンドに放り込まれている。
この話は特段秘匿しているわけではない。請われれば惜しみなく伝授してきたつもりだけれど、皆一様にあいまいな感謝の言葉を浮かべるばかりで打席で実践した者は私の知る限りいない。曰く、自ら手を下し絶命させたいとまで願うほどの憎悪を持ったことがないため、実用できるほどのイメージへの没入が叶わないのだそうだ。
なるほど、このような感情が特異なものであるならば、これは私しか持たぬ強みと言えるのだろう。母から人生でただひとつ受け取っていたものの大きさを自覚したのはこれが初めてであった。
10/7/2024, 7:04:12 PM