「こんばんはー!前回の作品クリアしちゃったから、今日は新しいゲームを始めていこうと思います!」
マイク越しに明るい声で相手に呼びかける。画面の向こうには顔も本名も知らない人たちがいて、彼ら彼女らはコメントという形で私に反応をくれる。
私が初めて自分からやりたいと思った活動。昔からゲームが好きで、色んな人と感想を話し合えたらって思って始めた。
リアルでは人の言うことを聞いて、顔色ばかり見てしまうけれど、この活動はそんな自分を引き離してやる事ができる。私が私でいられる場所……だった。
「このシリーズは初見だからまずは操作から慣れないと!みんなもコメントで楽しんでくれたら嬉しいな。」
無理やり笑顔を浮かべて明るい声を作る。
本当は苦手なシステムのゲームだったから、やろうとは思っていなかった。ストーリーがいいらしいと言う噂はSNSで聞いていたけれど、苦手なシステムと向き合うのは、正直言って苦痛だ。
でも、私の配信を見に来てくれている人は、私がこのゲームをやることを期待している。DMでも沢山リクエストが来ていたし、コメントでも期待されていた。前の配信のときに苦手なシステムだからと話はしていたけど、リスナーたちから、「それでもやってほしい、自分たちがいるから大丈夫。」と言われてしまい、リスナーたちの期待を裏切りたくない私は、やることを選んでしまったのだ。
プレイ中にふとコメント欄を見ると、アドバイスと言う名のお節介や指示コメントが多く流れてきて、気分が落ちそうになる。私と同じように楽しそうにしてくれているコメントもあるのが、唯一の救いなのかも。
コメント欄に苦笑いを浮かべながら、ゲームと向き合う。操作には手間取ってしまっているが、ストーリーは本当に面白いし、考察のしがいがある。この章が終わったら、リスナーたちと感想と考察を交わそうと奮起して、コントローラーを握り直した。
『曖昧な 心の境界線』
11/9/2025, 5:05:19 PM