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モノクロ



 
 モノクロと言われて思い出すのは、地獄みたいなあの風景だ。

 あれは、夢の話だったんだと思う。夢をあきらめた僕の家族ごっこの優しい夢。
 お父様がいて、お母様がいて、たくさんのきょうだいがいる。思い返せば何かの大きな宗教団体だったのかな。
 その中に仲のいい姉と仲のいい弟が一人ずついた。
 真っ白な世界で何日も過ごした。

 その平和はあっさりと壊される。
 
 扉がガタガタと揺れて刃物を持った人形がきょうだいたちに襲いかかりだす。その時に仲のいい弟は僕を庇って死んだ。僕は外の世界に逃げ出して、そこでホントの家族のことを思い出すんだ。
 そこで本物はみんな無事だったって確認して、逃げなきゃってその時に、仲のいい姉がやってきた。
 明らかに様子がおかしくて、僕のことを殺しに来てるんだってわかったんだ。
 それで僕は殺さなくちゃって、思ったんだ。姉さんが本物を殺さないように、道連れにしてやろうって。
 抑えたまま線路に飛び込んでも、川に飛び込んでもいい。逃さないようにすれば大丈夫だと思っていた。姉さんを抑え込んで、川に飛び込もうとしてそのあまりの高さに、道連れじゃなくても大丈夫だって気づいたの。
 そこからはあっさりと姉さんを突き落として
 堤防の縁に打った頭から黒い何かが広がっていく。
 そこからは全部モノクロで、確かなのはあの黒はきっと本当は赤かったということだ。

 姉さんを殺した。あの日のモノクロが今もなくならない。

9/29/2025, 11:36:44 AM