「鋭い眼差し」
彼はいつも、クラスの中心にいる。
明るくて、運動神経が良くて、顔も良い。クラスのムードメーカー的存在だ。
しかし、私には見える。
いつも彼の背後で、彼に鋭い眼差しを向けるその目が。
私はある日、放課後の教室で偶然彼と2人きりになった。たわいもない会話をして、彼が帰ろうとした時、「あの」と、彼を引き止めてしまった。
それは、彼が大丈夫なのか純粋に心配だったからだ。
「信じてもらえないかもしれないけど」と続けて、彼の背後に女の子の霊が着いていることを話す。
それを聞いた彼は、全く驚かなかった。
まるで知っているかのように、「あぁ」とだけ答えて行ってしまった。
私は、嘘だと思われたのか、バカバカしいと思われたのか、意味がわからなかった。なんだか逆に恥ずかしくなって、自分がいたたまれなくなった。
時々いる。俺の後ろに着いているこの女が見える人間が。今日もこの女は、俺の事を鋭い眼差しで刺してくる。
あれは小学3年生の時だった。俺はいじめをした。
きっかけは些細なこと。でも教室で彼女の存在は異物となり、いつしかみんなが避けるようになった。
俺は彼女を虐めても良い存在というふうに認識した。
クラスでの虐めは次第にエスカレートした。
最期はクラスメイトに煽られて自殺した。彼女に窓から飛び下りることを強要した。でも、誰も本当にやるとは思っていなかった。彼女は泣きながら窓枠に足をかけて、するりと窓を抜け、グラウンドに落ちた。
酷い音がした。俺は窓から身を乗り出して、下を見た。そこには、ぐちゃぐちゃになった彼女がいた。気持ち悪いものが喉奥から込み上げ、トイレへ駆け込む。嗚咽を漏らし、吐いた。
口を拭って、顔を上げると鏡が目に入る。俺の後ろに彼女が立っていた。
今日も彼女は俺を睨みつけてくる。
俺は一生この業を背負っていくのだ。
10/15/2024, 11:40:17 AM