在葉

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胸の鼓動

 これほど煩雑なものも、そう無いんじゃないか。
 空気に適応した体ってものでは、水で死ぬし、落ちれば死ぬし、空気が無ければ死ぬし、筋肉の塊である心臓ってやつが動かないと死ぬし、動いててもリズムがある程度ちゃんとしてないと死ぬし…いっそ無ければ、簡単な話なのに。

 体を捨てて、空気になって、空に風に混ざりたい。
 「ふうん、人間てそんなこと悩むの?ふうん」と言いたい。空気には分からないだろうな、と言い返されたら、うん分からない、と頷いて、「そんなことより、遊ぼうよ」と、誘いたい。体を捨てることになるけど、些細なことだよね。

 …そういう想像で心はとても軽くなって、まるで、起きなくていい穏やかな朝の布団のまどろみのようだ。しかし悲しいかな、自分は人間なので、然るべき時までは、体を使うのでしょう。
 ああいつか、もう一度存在しなければならないのなら、選べるのなら…名もない、存在するのかも危うい、有機物ではない、何かでありたい。

9/9/2024, 5:13:07 AM