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「開けないLINE」

何がどうなって、こうなったのか、まだ混乱している。憧れて、ただ見つめるだけだったのに、今このスマホに、あの人のIDが入った。「また」と手を振って去って行く後ろ姿を見えなくなるまで見送った。

出展している見本市会場で、たまたま高校の先輩に会った。名刺交換をして「よかったら今度食事でも」と言われ、どうせ社交辞令だろうと思っていたら…

「いつにする?」
と言いながらLINEのQRコードを表示させている。
「ほら早く。仕事中でしょ」
急いで読み取り友だち追加する。
「それじゃあ、また」

また?私たちに「また」があるの?

何も告げることなく終わった初恋。だって、先輩の隣にはいつもあの人がいたから。あの人とはどうなったの?まだ付き合ってる?もう結婚した?なぜ私を覚えてた?

聞きたいことがたくさん浮かんでくる。ブブッとスマホが震えたけど接客中で開けない。ポケットに入れておいたら集中できないからバッグにしまった。

「お疲れさまでした」
今日の業務が全て終わった。会社で新たに展開する商品の評判は上々で、今日の手応えなら明日はもっと反響があるのではとないかと期待も高まる。

「莉央」
さっきまで一緒にブースにいた一つ上の先輩に呼び止められた。

「さっきのイケメン、誰?」
「高校の先輩です」
「元彼とか?」
「違いますよ!」
「そんなに必死に否定しなくても。さては片思い?」
「教えません!」
「莉央は本当にわかりやすい。ま、頑張って!」

頑張るって何を?
バッグからスマホを取り出すと2件の通知。どっちも先輩からだ。

そういえば、私は先輩のどんなところを好きになったのだろう。かっこいいから?それは否定しない。

入学して間もない頃、自販機で飲み物を買おうとして百円玉を落としてしまった私。ころころ転がって側溝の蓋の隙間から中に落ちて行った。それを見ていた先輩が百円くれた。ただそれだけ。返しますと言ったのに、俺のおごりだからと、クラスも名前も告げずに行ってしまった。

でも、すぐにわかった。生徒会長だったから。それに副会長の女の子といつも一緒でとてもお似合いだった。

先輩は手の届かない人。だからずっと平気でいられたのに、スマホには先輩からのLINE。開けたらどうなるの?ずっと蓋をした想いがどうなるのか怖くて開けられない。

9/2/2024, 9:12:45 AM