かたいなか

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「衣替えの、何が面倒って、収納の中身をいちいち総入れ替えすることだと思う」
オールシーズン着られる服が有ったら理想だが、
日本の冬は北だとバチクソ寒いし、夏は最近「酷暑日」なんて単語まで出てきちまってるから、きっと現実には無理なんだろうな。
某所在住物書きは秋冬用の部屋着を取り出して、眺めながら言った。
「服の量減らせば、衣替えの時の総入れ替えも、そりゃラクだろうけどさ」
それができりゃ、まぁ、苦労しねぇわな。物書きはため息を吐き、服を畳む。

――――――

最近最近のおはなしです。秋の入口のおはなしです。都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人間に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりまして、
現在、夏毛から冬毛への生え変わりが、丁度まさしく、始まった頃。
換毛期。すなわち、衣替えです。稲荷神社在住の狐一家は、これから夏のスリムを脱ぎ捨てて、冬のモフモフに着替えるのです。

このおはなしに登場する、狐一家の末っ子も、コンコン、夏毛が抜け始めました。
ペロペロ毛づくろいして、カリカリ抜け毛をかき出して、それでも抜けない分、舌や爪が届かない分は、父狐や母狐に、あるいはおじいちゃん狐やおばあちゃん狐に、ブラッシングをお願いするのです。

今日もぽかぽか、朝日の暖かさをたっぷり吸った夏毛が、ふわふわ、ふわふわ。
ブラッシングで抜けて、まとまって、小ちゃな毛玉になってサヨウナラ。
抜け毛のむずがゆさがスッキリして、子狐はご機嫌。
神社の広場の、明るい陽だまりの真ん中で、フサフサしっぽを枕にして、幸せにお昼寝を、

しようと思ったら、なんかイジワルそうなオジサンが、それでも藁にすがる悲壮を心に、稲荷神社に参拝に来ました。

「わるい人間だ」
コンコン子狐は不思議な狐。人間の、心の奥の奥の匂いが分かります。
「人間をいじめる、わるい人間だ」
子狐が嗅ぎつけたとおり、参拝に来たオジサンは、
つい最近まで、自分の仕事を全部部下に押し付けて、終わった成果だけ横取りする、上司にゴマスリしてばっかりのオジサンでした。

なぜ「つい最近まで」って?
今月の最初、具体的には10月5日頃、自分のゴマスリと仕事成果の横取りが、職場のトップに、ダイレクトにバレてしまったのです。
悪いことは、するものではありませんね。
で、トップから直々に御叱責を賜りまして、自業自得ながらストレスで、頭の生え際後退がマッハ。
厄払いをお願いしに来たのです。それから少し、「毛が戻りますように、増えますように」の神頼みも。

「『毛が増えますように』?」
ゴマスリオジサンを遠くから観察して、匂いを嗅いで、コンコン子狐思いました。
「人間にも、かんもーき、あるヒトいるのかなぁ」
お洋服も衣替え、夏毛と冬毛も衣替え。人間は2個も衣替えしなきゃいけないから、大変だなぁ。
ぶっとんだ勘違いでオジサンにちょっと同情します。
「それとも、あのひとも、化け狐か化け狸なのかな」

化け猫の雑貨屋さんが、丁度すごくサイコーなブラシを入荷してくれたから、オススメしてこようかな。
でも悪い心のやつだから、いっそ、高い値段で売りつけて、ボーリをムサボルすれば良いかな。
コンコン、子狐いっちょまえに長考しまして、でも陽だまりの陽気があんまり心地良いものだから、
ゴマスリオジサンが厄払いしてもらって、祈祷料等々支払って、稲荷神社から出ていく頃には、
こっくり、こっくり。幸せに、寝落ちてしまっておったのでした。
おしまい、おしまい。

10/23/2023, 1:55:11 AM