アリス

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『解かれた心』


私の手元には、封印の魔法によって封じられた日記がある。

これは、私に遺した彼の日記だ。
私に遺したというのに、私には開けない。

封印の魔法は解除の魔法をかけることにより解かれるが、その解除の魔法を知るのは、封印の魔法をかけた本人のみ。本人が記していない限り他の人は知ることが出来ず、永遠に閉ざされたままだ。

「……どうして見ることを許してくれないの」

よほど酷いことが?
いや、彼の性格上そんなことは書かない。
なら、なぜ?



そうして私は、彼の遺した日記など頭の片隅に追いやったまますっかり忘れてしまっていた。
あれから、弟子にして欲しいと懇願してきた子供の面倒を見て過ごしている。
それほどまでに時間が経ち、彼の死も受け入れて乗り越えることが出来た。

弟子のために古い魔術の本を探そうと家中をひっくり返していると、かつての日記が出てきた。

「…………これ」

結局、どう解くのか分からない。そのまましまって、見ないようにした。そうして乗り越えた、彼の死。今なら、冷静に見れる。
くるくるとその日記を回していると、日記の端の部分に微かな汚れがあった。剥げそうで、剥いでみようと思った。

『ルルと僕が、出会った日から……10日後。』

私と彼が出会った日のことは良く覚えている。
街がお祭りでどんちゃん騒ぎ、毎年魔法使いは舞台で技をお披露目する。
若い魔法使いなら修行の成果。余裕があれば楽しく見せる、綺麗なものを魔法で作る。など。
そんなお祭りの日は、毎年12月25日。

つまり、この封印の魔法を解く日にちは
1月4日。解除の魔法を唱え、日にちを言う。
すると、張ってあったはずの魔法は溶けて、日記が開いた。

「………………こんなこと、わざわざ日記に書いて何年も保存しないでよ」



『死んじゃっても、ルルのことが大好きだよ。』



また、引きずってしまうじゃない。




お題:閉ざされた日記

1/18/2024, 1:46:25 PM