千寿

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一週間。それは、マッチングアプリで出会った私達が付き合うまでにかかった時間。
いくらかメッセージを交わしたあと、初めてのビデオ通話。翌日には実際に会うことになり、その日のうちに告白されて交際が始まった。
一ヶ月。それは、彼と付き合いだしてから私が実家を出るまでの期間。
以前から実家での生活を窮屈に感じていた私の背中を彼が押す形で、住み慣れた家と家族を置いて、弾丸のように飛び出した。自分の名義で古いアパートの一室を借りたけれど、実際には二人揃って彼の家と私の家を交互に行き来していて、その暮らし方は同棲しているも同然だった。
一年。それは、私と彼が婚約するまでに交際した期間。
幸せなデートや大きな喧嘩を経て、なんとか二人で交際一周年を迎えることができた。バレンタインにも訪れた、思い出のフランス料理店でディナーを終える頃、彼は私に小さな布張りの箱を差し出した。ビロードの台座には澄ました顔で、小粒なダイヤが上品に輝いていたのを覚えている。特別断る理由も思いつかなくて、私は彼に頷いてみせた。
さらにその一年後には結婚し、そこから二年後には子供も二人生まれた。仕事、育児、家事、夫婦の時間が、私の人生に所狭しと詰め込まれ続けた。

こうして、私の自由な時間は失われた。今でもしばしば夢想することがある。あのとき、彼との同棲生活を少しでもやめていれば。あのとき、彼からのプロポーズを断っていたならば。私はもっと自由に、心豊かな毎日を過ごせていたのではなかろうか、と。
タラレバはきりがない。今の生活を選んだのは自分だし、子どもたちは本当に可愛い。だけど、それでも、やっぱり諦められないのだ。
失われてしまった、私だけの自由な人生を。

5/14/2024, 2:37:04 AM