孤月

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小雨の降る日、昼下がり。
特別な存在が空に溶けた。
滅多に見られなかった微かな微笑みも、通常装備の眉間の皺も、暖かな心を表すかのような穏やかな声も、落ち着かない時に見せる手ぐせももう見ることは出来ない。
息を引き取ってからでもぬくもりを与える為に手を握ったり、身体を摩ったりしている皆を横目に放心していた。何もできなかった。何も伝えることが出来なかった。後悔してももう遅い。言葉は伝えられる時にちゃんと伝えなきゃいけないのに。後悔も一緒に空へと溶けていってほしいが、残った私たちを許してはくれない。
近親者との死別は、今後またあるであろう別れへの準備だとも聞いたことがある。今日の経験を糧に残された私たちは前を向かなければならない。何も伝えることが出来なかった、何も恩返しできなかった後悔を忘れないように、特別な存在を何度も思い出すように今後も生きていく。

3/24/2024, 9:07:39 AM