宵街

Open App

 あの頃は良かった。何をするにも自由だった。夜の街を遊び回るのも、捨てられていた子猫を保護して一緒に育てたのも、あいつがいたから何でも楽しめたんだ。
 あいつの影響で変な漫画にハマったり、信じてなかった占いもなんとなく信じるようになって。
 本当に楽しかったんだ。本当に。

 なのに今は不自由で、何をするにも失敗、失敗、失敗。上司に怒られ、同僚には笑われ、努力は横取りされて何もかも楽しくない。生きていても意味がない。

 あいつは何をしているんだろうか。平和に生きているんだろうか。そんなこと考えていたら何故か涙がこぼれ落ちて。

 そして気づいたら、電話をかけていた。でも出るわけもなく。何気なしに書きしめた遺書を机に、首を…なんて思って、足元にあった椅子を蹴った。

 その直後。

「なにしてんだよ!!」

 あいつが淀んだ部屋に飛び込んで、俺を吊り上げる縄を切り捨てやがった、なんでここにいるんだお前。
 そんな事言う前に強く抱きしめられていて。そんなに震えて何なんだ、大丈夫かなんて言い出す前におまえの口から弱々しい音が漏れ出て落ちた。

「間に合って、良かった」

 お前、仕事は。

「そんなもん途中で抜け出して来たに決まってんだろ、だって」

 だって?

「かけがえない親友の危機に駆けつけられないなんて、一生後悔するだろうから」

 ああ、本当にお前は。

 お前が親友で、本当に良かった。


10.『友情』

7/24/2023, 11:36:55 AM