夜、マンションの庭にて。柵に右腕を置き、左手でお兄様のから少し拝借したワインを入れたグラスを持ちながら、空を見上げる。今日はとてもいい天気で、星々が輝きよく見える。
皆でジュースを飲みながら、夜に家族とピクニックをしていた。
―――ほら、星が綺麗だろう?
「……お父様」
―――ふふ、そうね。お祖父様とお祖母様は、あんなにも遠くから見守ってくれているのよ
「お母様……」
―――え!そーだったの!?おじいちゃん、おばあちゃん、ありがとー!
「……お姉様……」
星がうっすら輝く夜空で、一等綺麗に流れる光―――流れ星が見えた。
―――あ、流れ星だ~!
―――流れ星といえば、こんなのを知ってる?流れ星が消えるまでに3回願い事を唱えれば叶うという話よ
―――へえ、そんなものがあるのか。
―――うそっ、早く言ってよお母さん!えーっと、えーっと……。
「―――皆と仲良く生きれますように」
お姉様は、ジュースを飲みながらそう3回唱えた。……2回目からはもう流れ星は消えていたけれど。そして悔しがりながら、お姉様はジュースを一気飲みし、お父様とお母様、そして私もそれを笑いながら飲んだ。お父様とお母様は喉が渇いていたようで、一気に飲み干してしまった。対して私は、それほどだったのでちびちびと飲み、一人だけジュースの減り具合が違った。
―――ふふ、お姉様に続かなくていいのかしら?
―――え、そんなこと言われても……じゃあ、
「大切なものの願いが、叶いますように」
―――さすが私の妹!優しい願いだ~。
そんなことを話しながら、お姉様のジュースも徐々に減っていった。イマイチ減らず残っていたのは、私のジュースだけ。
時は3年前。その日、お母様とお父様はお姉様を庇って亡くなり、そしてその2年後、今から1年前にお姉様は私を庇って亡くなった。
「……ん、あれ?」
グラスを持ち、口付けてその中身を飲もうとする。しかし、その中にあるはずのワインはなかった。いつの間にか、この眩しいぐらいに輝く星空を見ているうちに飲み干してしまったらしい。昔の私のジュースとは違って、あっという間に空になってしまった。
空を見上げる。すると、マンションの屋上から落ちる人影が見える。……あれは……。
「―――お義兄、様?」
お義兄様は、お姉様の元婚約者、恋人。看取ることのできなかったお母様とお父様の死をお兄様はその身に刻みながらも乗り越えたし、なんなら私とお姉様を励ましてくれていたものの、お姉様が亡くなってからはなにか事切れたように衰弱していくようになった。そして、数年前はリスカも……。一体、何をして―――いや、わかっているだろう。本当は。
「お兄様、ごめんなさい。私は大切なものに生きていてほしいのです」
お兄様の着地点へ、間に合うように走る。走って、走って、走って―――。
「ッ!!!!」
ゴツン、となにかに上から大きな衝撃を受けた。
「おい、なあ、どうして―――!!」
お兄様の震えるような声はそこで途切れ、私の世界が暗転した。お母様とお父様、それからお姉様も。死んだとき、こういう気持ちだったのだろうか。死ぬのは嫌だけど、それでも。大切なものを守れて、よかったって。そう、思ってたんだろうな。私も置いていかれる側がどんなに辛いか経験しているくせに、それでもこんなことするなんて。―――大切なものには、自分より生きてほしいってまだ思えるなんて。
冷蔵庫にあるお兄様のワインが、寂しそうに残っていたのを思い出した。
4/2/2026, 11:15:02 AM