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やっと止んだ
今日は隣の席の男の子の教科書を間違えて持って帰ってしまったので、返すために駅で会う約束をしていた。
私も隣の席の子も自転車で行く予定だったので、雨が止むか心配していた。
雨上がりの町は地味で、静かだった。
水溜まりを自転車で踏むと、水がビシャっと弾く音が聞こえた。
待ち合わせている所に向かうと、隣の席の蒼井くんはもう着いていた。
「先に着けなくてごめんね、待った?」
蒼井くんは優しく微笑む。
「ううん、ついさっき来たとこだよ
来てくれてありがとう」
「いやいや、テスト期間なのに私が教科書持って帰っちゃったから…こちらこそありがとう」
教科書を慌ててリュックから取り出し、渡す。
「…じゃあこれで!」
少し気まづいのですぐ帰ろうとした時、
蒼井くんが「まって」と腕を掴んだ。
「ええっとこの後予定とかない?」
びっくりして固まっていたのでいそいで返事をする。
「え、あ、うん!何も無いよ」
「じゃあさ、綾瀬がもし良かったらなんだけど、図書館で勉強教えてほしい」
駅まで取りに来てもらったし、蒼井くんがそう言うなら…
「もちろん!あ、でも私上手く教えられるかな…」
「大丈夫!苦手なとこ沢山あるから綾瀬に勉強教えてもらいたかったんだ」
「そういう事なら!」
「よかった!」と蒼井くんが言う。
「じゃあ、図書館行こっか」
「うん!」
図書館は駅のすぐ近くにあり歩いて行くことができる。
受験勉強の時に何回も来たなー、最近は行ってないからなんだか懐かしい気持ちになる。

蒼井くんの友達の面白い話を聞いて笑ったり、好きな小説を2人で語ったりしながら雨上がりの道を歩く。
空は灰色で、空気はジメジメしていたけれど、私達だけはキラキラ輝いていた。

「この時間がずっと続いて欲しいな」
蒼井くんがこう言った。
続けて私も、「そうだね」と笑う。
2人の頬はほんの少しだけ赤かった。

6/1/2025, 1:59:33 PM