夢と現実
「夢占いに通っているのよ。」
彼女は嬉々として私に告げた。
いくつか年上のご近所の奥さんの話だ。
彼女とはこの十年来、私が今の家に越して来てから付き合いらしい付き合いはなかったが、今年の春、町内会の係をペアですることになったことで初めて関わりが出来た。
「そこの占い師さんとっても当たるって有名なのよ。ほら、そういうのって怪しいじゃない?私も元々は疑ってかかってたんだけど、彼女だけは違うの、本物なのよ。」
本物?
たしかにその占いの店は知る人ぞ知る有名店だ。
都心から電車で小一時間、ある地方都市の何でもない商店街の中にその店はある。
いわゆる若いカップルがキャッキャしながら遊びの延長で立ち寄るポップな店でない。
どちらかと言えば、いい歳をしたまともな見た目の大人たちがお忍びで通うような割とガチめな店だ。
かくいう私も、白状すると数年前占いにはまっていた。
今思えば安くない授業料を払い、僅かばかりの心の安寧を買っていた頃がある。
だから、占いを信じる人をバカにする気はさらさらない。
むしろ、正攻法でありとあらゆる方法を試し、努力を重ね、それでもダメだから占いに行き着いたのだと思えば理解も出来る。
例えば、夢と現実を一本の線上で左右に分け、左を夢、右を現実とするならば、今現在占いにどっぷりはまっている近所の奥さんは、左の一番端にいると言える。
一方、当時占いに通うだけでは事足りず、本格的な占い師になるべく占いの教本を取り寄せ勉強までしていた私だが、今ではすっかり目が覚め、右の一番端にいる。
占いを信じ、夢の中でふわふわと生きる期間も人によっては必要なのかもしれない。
そして、そこから立ち直り、現実に立ち向かう気力と体力と知力を取り戻したらまた戻ってくればいいのだから。
お題
夢と現実
12/4/2024, 3:36:08 PM