りおち

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朝の光が、いつもと違って見える。

窓の向こうに、青い花が咲いている。君が好きだと言っていたことを思い出した。以前は気にも留めなかったのに、今ならその青さがわかる。
君にとっての、君だけの青。

「色が違います」

医者はそう言った。

「慣れるまでは、もうしばらく」

いや、適応の問題ではない。
君が見ていた世界なのだ。深い海の底から空を見上げた時の、淡い光のような青。

「あぁ、いいな。君に恋して良かった」

救急車のサイレンが遠ざかっていく。あの赤い光も、前とは違って見える。優しくもあり、哀しくもある。

君は私のことを、どう見ていたのだろうか。
ふと気になって立ち上がったが、やめた。
台所にあった、手入れの行き届いた小さな鏡に自分がどう映るのか。それを知るには、まだ恥と、覚悟が必要だった。

外がにわかに騒がしくなる。
パトカーのサイレンの音だ。
それも、とても近い。

8/14/2025, 8:47:55 PM