白糸馨月

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お題『入道雲』

 大人たちに内緒で僕達は酸素を補給するためのマスクをつけ、外の世界へ出かけた。
 かつて人間が住んでいた場所だって、学校で習ったし、おじいちゃんから何度も外の世界の話を聞かされていた。
 外の世界は、大人の特定の人以外出ちゃいけないところなんだっておかあさんから聞かされていた。
 でも、僕は友達と二人で外の世界へ行くことに決めた。外の世界は僕達が住んでる地下の世界と違って、空の色が規則正しくないんだって。おじいちゃんが言ってたことを友達に話したら、友達が興奮しちゃって「行こう」って言ったんだ。僕も外の世界の空が見たかった。
 暗いトンネルのなかを進んで行く。ほんとうは大人たちに見つからないか怖かったけど、友達がどんどん先に進むから弱音を吐かないようにしたんだ。
 やがて光が見えてきてその先に進むと、そこには青い空が広がっていた。
 いつも僕達が見ている一色だけの空じゃない。不規則な形の雲が浮かんで、青から下に向かって白のグラデーションがかかっている本物の空だ。
 友達がふと言った。
「入道雲だ」
 って、僕は大きなソフトクリームみたいな形をした雲を見て、崩れたビル街や、ぐちゃぐちゃになったアスファルトや、草木が生えなくなった地面の上に果てしなく広がる空を見て、なんだか泣き出したくなったんだ。

6/29/2024, 11:58:10 AM