シオン

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 権力者がいなくなった。
 死んでしまったのか、それともどこかに連れ去られたのか、僕には皆目見当もつかない。
 僕というのはこの世界でそれなりに強いとは思う。迷い子を元の世界に返せるという能力を持っているんだから。
 でも、同時に僕はとてつもなく弱い。この世界について何も知らない、ただの一介の住人なのだ。
 だから僕は結局彼女がいなくなった理由も知らない。そっちの方が良かった。

 次の日、彼女が付けていたリボンが見つかった。
 手に取ってよく見て、そして気づいてしまった。
 元々赤かったそのリボン、端の方が少しだけ違う赤色をしていた。そう、例えるなら血の色。
 そういうことなのかもしれない。
 そんなことは思いたくないけれども。
 もう彼女はこの世界にも、どこを探しても見つからないのかもしれない。
 僕は彼女にとって何か特別な人間じゃあない。だから悲しむ権利も惜しむ権利もありゃしない。
 ただ、彼女と同じ世界で生きていたというその証を忘れたくない、いつまでも。
 それくらいは許してくれてもいいんじゃないだろうか。
 そんなことを思いながら、僕は彼女のリボンを腕に巻き付けた。

5/9/2024, 4:15:22 PM