『生きる意味』
『お前は何のために生きている』
かつて投げかけられた言葉が頭を過ぎる
当時はその問いに何も返せなかった
何のため?自分は何のために生きているのだ
守るものもない、生きる意味さえ見出せない
ただ毎日亡霊のように彷徨い歩くのみ
だから自分は何者にもなれないのか
何かを欲すれば、
富を財産を伴侶を手にすれば
この孤独も心の渇きも痛みもなくなるのか
だが安定した暮らしを手に入れ、
大切な人ができた今でも、
漠然とした不安や孤独は消えない
おそらくそれは一生ついて回るもの
そこまで考えてセバスチャンは我に返った。
銀色の髪をかきあげてため息を吐く。
一人でいると、くよくよと考えなくても
いい事まで考えてしまうのが自分の悪い癖だ。
重たい腰を上げ、紅茶と茶菓子を用意すると、
主のいる書斎へと向かった。
「主、お茶をお持ちしました」
扉を叩くが返事はない。
心配になり中へ入ると、書類が散乱する
机の上に頭を乗せて彼の主は眠っていた。
「こんな所で寝てたら風邪を引きますよ」
華奢な肩を軽く揺するが起きる気配はない。
セバスチャンは、
彼女の背中と両膝に手を回し、そっと
抱き上げ、暖炉の傍にあるソファまで運んだ。
起こさぬよう優しく下ろせば
彼女の匂いがふわりと漂う。
甘くて馨しい落ち着く香りだ。
柔らかなブランケットを彼女の腰部分まで
かけると、ゆっくりと上下する胸元を見つめた。
穏やかに眠る吐息と鼓動の音を感じながら
セバスチャンは考える。
月夜の晩、
俺は主に、いつまでここにいてもいいかと尋ねた。
彼女は俺に、ずっと傍にいていいと言ってくれた。
その言葉を聞いた時、
胸がカッと熱くなり、苦しかった。
だがその苦しさは、昔とは違う。
なぜか心地良ささえ感じる。
自分は、この方の喜ぶことがしたい。
その想いが自分をこの場所に、この世界に留めていた。
4/27/2024, 5:25:06 PM