一面ひまわりが咲き誇るなかを、一人歩いている。
人より背の高い自分にとって、その花は他の花と同じ見下ろすもので、綺麗だなとは思うが特別何か感慨が湧くものでもなかった。
――何かを探していた気がする。
ひまわり畑の中に何かを忘れてしまった気がして、歩き続けている。そのうち日が傾いて、辺りがオレンジに染まり始めた。
探し物は見つからない。
そもそも何を探していたのか。何を忘れてしまったのか。夕日が沈み、夜になってもひまわり畑の中をたった一人、歩いている。
夜のひまわり畑は少し不気味だ。
無数の目が自分を見つめている気がする。
こんな暗いなかで探し物なんか見つかるわけがない。
なのにいつまでもいつまでも、歩き続けている。
夜が明けた。
朝日がひまわりを照らしている。
金色の光は泣きたくなるほど神々しくて、温かい。
ひまわりが伸びている気がする。
膝あたりまでしか無かった筈の背丈が、胸のあたりにまで伸びていた。探し物は見つからない。忘れ物は思い出せない。
歩いているうちに、ひまわりが伸びたのではなく自分が小さくなっているのだと気付いた。
自分より背の高いひまわりが、自分を見下ろしている。怖くなって、歩くスピードを早めた。
迷路のようなひまわり畑を、たった一人走っている。何を忘れたか思い出せない自分を、何を探しているか分からなくなっている自分を、無数の目が咎めているようだった。
――怖い。
涙が滲んで、黄色の世界がぼやけてくる。
少し開けたところに出ると、小さな子供の背中が見えた。
「あ、やっと来た」
子供が振り向く。ひまわりの花を両手に抱えている。
「――」
振り向いた子供の顔は、ぽっかりと穴が空いて真っ黒だ。
「探し物、見つかった?」
真っ黒な穴から声がする。
小さく首を振ると「そっか」と少し残念そうに答えた。
「忘れてきた物が多過ぎて、何が大切な物だったか分からなくなっちゃったんだね」
真っ黒な穴は、いつの間にか子供の頃の自分の顔になっていた。
「大丈夫だよぉ」
子供の頃の自分がニコリと微笑む。
「君が血に塗れても、世界中が君の事を咎めても、絶対君の味方でいてくれる人がいるから」
子供の自分が指をさす。
その指が指し示す、その先――。
「だからちゃんと、好きだよって言うんだよ」
「探したぞ、××××××」
誰よりも大切な〝君〟がいた。
END
「夏の忘れ物を探しに」
9/1/2025, 3:14:17 PM