テーマ『消えた時間』(『静かな情熱』は思いつかなかったので)
父のお下がりのスーツに腕を通す。伸びっぱなしだった髪は散髪され、髭も剃り、鏡に映った自分は別人のようだった。
高校の途中から引きこもりになり、それから十年。半ば諦めていた人生だが、自分を雇ってくれた社長には感謝しかない。
引きこもっていた十年間は、ネットゲームばかりして怠惰に過ごしていた。消えた時間は、もう戻ってこない。でも、これからの時間はまだどうとでもなるのだ。……社長の言葉だけど。
玄関まで見送りにきた母は少し涙ぐんでいたが、俺は指摘しないことにした。
「いってきます」
そう言って、外に出た。
4/17/2025, 11:45:25 PM