『巡り会えたら』
河のほとりで舞い踊るひとを夢に見た。踊りを嗜む身であるので同じ流派だということは判ったけれど、あんな振り付けは師匠や大先生の踊りを何百と見てきた中のどこにもなく、目を奪われるものだった。
目が覚めてからは誰も知らない踊りに夢中になった。見様見真似で踊りを再現しようと躍起になったり、古い書物を漁ってあの踊りやあのひとに繋がるものがないかを探したり。師匠や大先生にも尋ねてみたところ、なぜか悲しい顔をされた。
あれは死者の踊りなのだと大先生は語る。自分と同じように河のほとりで踊るひとを夢に見ると踊りに取り憑かれ、踊りきった暁にはぱったり倒れてそのまま戻ってこれなくなってしまうのだと。
「河のほとりにいたひとは私に似ていたでしょう?」
大先生は涙をひとすじ流してあれは私の娘なのだと言った。
その話を聞いても私は踊りを止めなかったし止められる人もいなかった。どうしてと問われる声にはどうしてもと答えるほか無かった。
一心不乱に舞う中に河のほとりの幻が見えてくる。河を挟んでふたりの踊りが重なって一糸乱れぬ同調となったとき、ありがとうとさようならの声が聞こえた。気づけば河のほとりにいたのは私ただひとり。滔々と流れる河は私に踊っておくれと囁いていた。
10/4/2024, 3:27:44 AM