【目が覚めるまでに】
仕事で疲れた体に鞭打って、白み始めた東の空を眺めながら早足で帰宅する。寝室のベッドで眠る君の横顔を眺める時間が、いっとう好きだ。
カーテンの向こうから、朝日が柔らかく差し込む。早朝から仕事へ出かける君のかけた目覚ましが、もうすぐ鳴り響くだろう。仕事の時間が全く噛み合わない君とのんびり共に過ごせるのは、無理矢理に休みを合わせる一年に二日もあるかないかの機会だけだ。それでも君以外の人を見つけようとは思わないのだから、たいがい末期なのかもしれない。
君の目覚めをここで待っても良いのだけれど、構っている暇があるならとっとと寝ろと君は怒るから。だから君の頬に、そうとは知られないようにそっと口づけだけを落とす。
「おはよう、今日も良い一日を」
祝福を囁くように言祝いで、君の寝室を出た。君の目が覚めるまでに、この一連の儀式をする。そのために仮眠も取らず、朝一番の始発電車に飛び乗って大急ぎで帰ってきているのだ。
ふわあと大きなあくびがこぼれた。ああ、眠い。泥のような眠気が脳を侵していく。自分のベッドに倒れ込んだ瞬間、意識はぷつりと飛んでいた。
「おやすみ、良い夢を」
柔らかく囁くその声を、知らないまま。
8/3/2023, 9:51:34 PM