ヨッカ

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お題『閉ざされた日記』



「そういえば、見つけちゃったんだよねえ」

 ため息が出るほど平和な休日の午後のこと。
 だらだらごろごろと部屋で惰眠を貪る罪・共犯者の友人は、出し抜けにそう言うと鞄から一冊の本を取り出した。

「なにそれ?」

 カーペットに張り付いていた体を持ち上げて、差し出された表紙を覗き込む。古ぼけながらも繊細な装丁に馴染んでいる小ぶりな錠が、その本が何かの秘密を守っているかのように思わせた。

「日記だって。ひいばーちゃんの」
「ひいお婆様の!?」

 思わず飛び起きて友人の顔をガン見した。
 自分は友人になってもう長いのでだいぶ感覚が麻痺しているが、実は彼女は教科書に載るレベルで偉大な魔法使いのお孫さんだ。本人はあまり言いたがらないけれど。
 ということで彼女の曾祖母の日記ともなれば、かの大魔法使いを育てた母親の貴重な私物。しかも更に貴重な当時の記録ということになる。その時代を調べている人にとっては、きっと垂涎ものなのではないだろうか。

「それ……ここに持ってきてて良いやつなの……? 寄贈とかしなくても……?」
「まあ良いでしょ。押し入れに入ってたやつだし」
「押し入れに!? ひいぃ……」

 慄く自分に対して、友人は特に気にしていなさそうにぽんぽんと表紙をはたき、ちょいちょいと指先で錠をいじった。身内故の無遠慮である。
 思わず「やめて!!」と出かかった悲鳴を両手で封じ込んでいると、表紙を見つめていた彼女の瞳がふっとこちらを映した。

「……これ、鍵は見つからなくてさ。中が見られないんだよね」
「え? そ、そうなんだ」

 その丸い瞳には隠されもしない好奇心が光っている。嫌な予感がした。

「うん、そうなんだよねえ……」

 彼女はにこりと無邪気に笑って一言。

「壊したら開くかな?」
「やめて!!!!!!!!」

 こうして、窓の外まで響き渡る悲鳴を上げた自分が隣人からの壁ドンを頂いたことと引き換えにこの日記の鍵は守られ、後に託された然るべき機関でも鍵の開けられなかったそれは『閉ざされた日記』と呼ばれる国の文化財になったのでした。めでたしめでたし。



「あの後さ、なんか変な鍵出てきたんだよね」
「……えっ!?!?」

1/18/2026, 6:52:31 PM