未知亜

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ㅤ紀子の息子の話を聞くのが、私は嫌いではない。
『ヤスくんがね、なんも話してくんないの』
「中二だっけ?ㅤ思春期でしょ」
ㅤ缶ビールを傾けて、私はスピーカー設定にしたスマホに話しかける。
ㅤこういうとき、私の頭の中にあるのは思春期時代の弟だ。あいつの発する単語の八割は、『普通』と『別に』と『腹減った』だった。男の子っていつの時代も変わらない。
『今夜は友だちのとこ泊まるんだって。そんな友だちがいたことも知らなかった』
「連絡はちゃんとしてたんだ……」
ㅤ紀子ではない相手に向けた私の言葉は、
『連絡無かったらこんなのんびり電話なんかしてないよお』
ㅤという声に遮られた。
『ついこないだまで、あの子の考えてること何でも分かってたのに』
「ついこないだって、あんたねえ」
『まさにheart to heart、みたいな』
「以心伝心ってやつね。何年前の話よ」
『え……今見てんの、五歳の時の写真』
「八年前だから、それ」
『ママ、だいすき!ㅤだってさ。この子どこに行っちゃったのかなあ』
「久しぶりの一人の夜なんだからさ、もっと前向きなこと楽しみなさいよ」
『……こういうところがいけないんだよね。あーあ。やっぱ気ぃ遣わせちゃってんのかなあ』
ㅤ大丈夫。あんたが思う以上に、あの子はあんたが好きだからね。今もheart to heartな息子くん、責任持ってこっそり一晩お預りしますよ。
ㅤ私の心の呟きが聞こえたかのように保則がゲーム画面から顔を上げ、ポテチを一枚つまみ上げて屈託なく笑った。


『heart to heart』

2/5/2025, 1:59:08 PM