NoName

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暴走した兄が市街地へ向かったという連絡を受け、私はバイクに飛び乗った。
いや、もう兄とは呼べないか。
私の兄の体をベースにした、機械人間が逃げたのだ。
逃げていく人たちの合間を縫い、どんどんバイクを飛ばす。

一度暴走してしまった機械人間を拘束することはほぼ不可能だ。止めるには、完全に機能を停止させるほかない。つまりは死。
そして、私たち警察には暴走した機械人間の強制機能停止が認められている。

大きい音を立てて暴れる機械人間は案外あっさり見つかってしまった。
私はその姿を見るなり、バイクに乗ったまま光線銃を何発か撃った。迷いはなかった。迷わないように考えるのをやめていたから。
光線銃は、こちらに背中を向けていた機械人間にこれまたあっさり当たり、力を失った機械人間はその場に大きな金属音を響かせながら倒れた。
自分に考える時間を与えないよう、すぐに上司に連絡を繋いだ。

上司に報告しながら、その体に近づく。
瀕死の状態だ。顔は依然見えない。
警戒は解かないまま、上司に報告を続けた。
しばらくして。ピッ、という電子音とともに通信が切れる。そして無音。
その時だった。
この状態の機械人間に、元の人格なんて残っているはずがない。
それでも、聞こえた気がした。

「___それでいい」

私は少しだけその場に留まってから、返事をして、ゆっくりバイクに乗って帰った。

「私だって、お兄ちゃんが生きてくれてるだけで良かったのに」

4/4/2024, 2:22:56 PM