彼岸花

Open App

#静寂に包まれた部屋

僕は部屋

少し前に建てられたばかりのアパート
まだ人はいないけど

それでも僕は部屋

ガチャリ

最初に越して来たのは四人家族
小さい女の子と中くらいのお兄ちゃんが一人

学校から帰って、疲れたようすのお兄ちゃん
「頑張ったねぇ」とナデナデする女の子
それを見て微笑む両親

数十年後、すっかり大きくなった子供達は
あまりここに来なくなった
それでも、訪れるたびに笑顔で話していた

次に越して来たのは金髪のあんちゃん

毎日毎日、そりゃあもう酒臭くて、タバコ臭くて…
何度か綺麗な女性も連れて来てたっけ

意外と女性と付き合うのは苦手らしくて
フラれた時にはクッションに顔を埋めて泣いていた
大丈夫だよって言ったんだけど、
ちゃんと伝わってたのかな?

ある日は、眼鏡をかけた男性が来て
カメラを構えながら、「新たな心霊アパートだ…!」
と叫んでた
ちょっとちょっと、人が来なくなっちゃうから
やめてくださいな

__

まぁこれも全部数百年前のことであって
今は誰もこのアパートに住んでいない

僕に残ったのは、静寂の空間だけ

維持費とかもかかるんでしょう?
どうせなら壊しちゃおうよ

だけど家主のおじいさんは、このアパートを見上げては
にっこりと笑うだけ
その微笑みは「温もりはずっと残しておくべき」と
言わんばかりだった

もう何度目の秋晴れが
僕のそばを通り抜けていった

9/29/2024, 11:30:04 AM