maria

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「あーーー、今度もまたダメだった。」


直人がカフェのテラス席で
アイスコーヒーのストローを抜き
グラスに口をつけ一気に飲みほした。

向かいの席で頬杖をつく僕は
興味のない顔つきで
直人の上下する喉仏をみていた。

「で?なんて?」

「ゲイなんて、ありえないってさ。」

グラスを置いた直人は
周りに配慮してか
低い声で呟いた。

「そっか。……まぁ、そうか。」
こんなふうに直人が断られるのは
初めてでもなかった。
直人は好きになったら
勇気を出してきちんと伝える。
だからこそこんなふうに
玉砕することも多い。

「失恋癖がついたのかもなあ。
うまくいく気がしない。」

グラスに残った氷をストローで
クルクルと回しながら直人が言う。

「失恋じゃないだろ。」

僕がほほえみながら言うと

「振られたんだから失恋だろ?」

と、氷をカチャンと言わせながら
直人が口をとがらせる。

「失恋てのは、恋を失うってことだろ?
失くしちゃいないさ。
ただ直人の背中にでも貼り付いて
見えなくなってるだけってこと。」

直人は 背中?
といいながら後ろを向く。
それじゃあ自分の背中は
見えないだろうに。


僕は笑いながら
こちらに向けられた直人の背中にむけ
そおっと腕を伸ばして
手のひらを当てた。

ほらな、ここにあった。

          僕と君の恋が。





「失恋」

6/3/2023, 11:22:13 AM