「美衣はね、優ちゃんとあそびたいの。」
「わたしは椎ちゃんとあそびたい。」
「なんで!美衣は優ちゃんと遊びたいって言ってるの!」
「じゃあ、一緒にあそぶ?」
「やーだ!美衣は優ちゃんだけがいい!やだぁあ!」
美衣ちゃんが泣き出した。いつものことだ。
「あらあら、どうしたのかな。」
そろそろ介入しないと暴力沙汰になって、親同士の問題に発展し、私も首を突っ込まないといけなくて面倒臭いから、美衣ちゃんと優ちゃんの間にそっと、けれども毅然とした態度で、割り込んだ。
「美衣はね、優ちゃんとあそびたいのにね、優ちゃんはね、椎ちゃんとあそびたいって言ってね、うらぎりものなのっ、嘘つきなのっ!」
「わたしは椎ちゃんと遊びたかったから、断っただけ。それに、美衣ちゃんにも一緒にあそぶ?って訊いたもん。」
美衣ちゃんと優ちゃんが各々の言い分を話す。美衣ちゃんは我儘でまさにガキって感じ。優ちゃんは大人びてて気持ち悪い。
「そっか、そっか。それじゃ美衣ちゃん、わたしと一緒にあそぼっか?あっちに新しい塗り絵も、大好きなくまさんもいるぞ〜?」
美衣ちゃんに満面の笑みで話しかける。金切り声で泣き始めた。笑みに労力を割いた分、裏切られた気持ちが強くて、ストレスがどっと溜まった。ああ、耳障りで頭を掻きむしりたくなる。
自分が泣き喚く一歩手前だったけれど、なんとか抑えて、美衣ちゃんの体だけでも優ちゃんと引き離した。
「なんでっ、なんであそんじゃだめなの!美衣は、優ちゃんとあそびたいのにっ、なんで優ちゃんは美衣とあそびたくないのっ!」
美衣ちゃんはまだ泣き叫んでいる。私は、自分が感情的になってきているのがわかった。だから、手に感情が渡る前に、口から感情を吐き出すことにした。
「美衣ちゃん。美衣ちゃんは、美衣ちゃんだよね?」
「っ?そうだよ。美衣は美衣だよ?」
「そうだよね?それと同じように、優ちゃんは、優ちゃんなんだよ。優ちゃんも、美衣ちゃんと同じように、考えや、心が、あるんだよ。」
「そんなのわかってるもん!でも、でも、美衣は優ちゃんとあそびたかったの!なのにきいてくれなくてイジワルだったの!」
わかってない。幼児にこんなこと言ってもわかるはずがない。声を張り上げないよう、息を大きく吸い込んで、ゆっくり吐き出す。わかるはずがないと思っていても、止まらなかった。
「美衣ちゃんと優ちゃん、もちろん、あなたとわたしも、みーんな違うひとなの。優ちゃんはね、『シイチャントアソビタイ』って謎の音の羅列を発したんじゃないの。『椎ちゃんと遊びたい』って意思の表明をしたの。わかる?あなたとは遊びたくないって言ったの。美衣ちゃんはわがままだから嫌だって言ったの。」
最後のは、私の言葉だった。しまった、そう思った時には遅かった。美衣ちゃんはまた泣き出して、騒ぎを聴きつけた先輩が「代わるよ。あっち見ててくれる?」って代わってくれて、私はその場から逃げた。
優ちゃんが椎ちゃんと遊んでた。無邪気で、腹が立った。毎日、この子たちの出した塵が胸に積もって山となって息ができなくなる。私はぼーっと、ふたりを眺めた。
私の辛い気持ちを汲んで、なんて、幼児には伝わらない。ここでは、私は『あなた』として、尊重されないんだ。
11/8/2024, 1:04:45 AM