明日、世界がなくなるらしい。
なんでも巨大な隕石が流星群となって地球に降り注いでくるのだとか。
テレビやSNSではひっきりなしにそのことが流れてる。
世界中の偉い学者や大学の教授も認めているから、隕石が振ってくるのは間違いないようだ。
上流階級のお金持ちや権力のある政治家たちは地球を捨て、さっさと宇宙へ飛び立った。
お前も来い、と私の名前も知らなさそうな父親が言った。顔を見るのは何年振りだろう。相変わらず自分の言うこと成すこと全てが正しいと思ってる顔をしてる。本当に変わらないな、この人は。
どうせ私を連れて行くのも人が住める地を見つけたあと、自分の子孫を残すためなんだろう。
私はそのためだけの道具だ。誰が行くもんか。知らない男と子どもを作るなんてごめんだ。
知ってるでしょ、私に好きな人がいることを。ずっと大切に思ってる人がいることを。
アナタが人を使って彼との仲を引き裂かなければ、今頃私はあの人と一緒になっていたんだから。
無理やり私を連れて行こうとする父親の隣で、母はずっと泣いていた。一緒に行こう、と。
ごめんね、ママ。
ママのことは好きだった。
けど、私は行かない。
父親の手を振り解き、玄関へ走り表へ出る。
行き先はただ一つ。
人生を終わらせる場所はあそこだと決めていた。
あの人に初めて出会った場所。
何度も二人で会っていた場所。
そして、あの人と別れた場所。
坂を登り階段を駆け上がると視界が広がる。
高台にポツンと寂しそうに置いてあるベンチに座り、空を見上げた。残された時間はあとどれくらいあるのだろうか。
もし、彼に少しでも私への気持ちが残っていたならここへ来てくれたりしないだろうか。
最期の日をあなたと迎えられたら、それはどんなに幸せなことだろう。
私の、たったひとつの願い。
5/6/2023, 2:04:29 PM