▶115.「一輪の花」
114.「魔法」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
---
〜人形たちの知らない物語〜
「ここか」
サボウム国王の墓の場所を聞いてやってきたのは、中庭だった。
隅に建てられていて、王という立場を考えればかなり質素だ。
それも生前の所業を考えれば仕方ない。
むしろ墓があるだけ敬意を払われているのだ。
一輪の花が供えられている。
____も、それに倣ってその辺に咲いていた花を摘み、並べて置いた。
(これで、良かったのだろうか)
じっくり考えをまとめたい所だったが、
また地面が揺れ始めた。
これ以上の時間は無いと判断した____は、
できるだけ遠くに逃げろと呼び掛けながら城から脱出する。
最初に話した人が呼びかけていたらしく、もう無人のところが多かった。
城下の住人たちもぞろぞろと後退し離れていく。
離れていくのを待っていたかのように、
また、力に溺れたものの末路を見せつけるように、
王城は隆起した岩に崩され、
また地面に生じた亀裂の中へ飲み込まれていった。
誰もが無言だった。
家が近くにある者は荷物を取りに行き、
そうでないものは早々と立ち去っていく。
____も、その場から離れることにした。
漏れ聞こえてくる話に耳を傾けていると、どうやら地面が揺れている間は術具が使えないらしかった。
もしかしたら何もしなくても、この現象によって、少なくともサボウム国は戦い続けることが出来なくなっていたかもしれない。だがそれは、王城にも城下の街にもたくさんの人が残っていることになっただろう。
そうなっては、避難に時間がかかってしまう。
「何があるか、分からないものだな」
強い風が吹いた。
立ち上る煙を追い払うように、一輪の花が空を舞っていた。
サボウム国の仲間は建設中という新首都にいるだろうと思われた。
しかし花の行く末を眺めていた____は、しばらくの間ここに留まることに決めた。
老夫婦に受けた恩を返すくらいは。そしてそれは仲間にではなく、ここに住む者に返したい。そんな思いだった。
王城があった場所は、地面が揺れる度に隆起を繰り返し亀裂も広がっていき、やがて地下水と繋がり大きな池を形成した。
誰かが地獄を再現したようだと言うと、それは街中に、後に国中に広まり、王によって開発された術具は揺れによる障害もあって急速に廃れていったのだった。
____は、住民たちの暮らしの立て直しを手伝いながら、
吹き出る蒸気や湯を調べ、人間への影響や活用法を見出した。
住民たちは貪欲に吸収し、生活の糧へと変えていった。
そして新しい国の形が出来上がってきた時、____はサボウム国を出た。
行き先はフランタ国。
その気候は、機械技術にとって必要な条件が全て揃っている。
____は、自分の描いた夢を諦めていなかった。
花を一輪ずつ集めて花束を作るように、
少しずつ材料を集め部品を作り、人形を作り上げていった。
自身の故郷でやっていたように人形の素体を作り、
フランタ国が得意としていた自律思考回路と動力回路を組み込む。
各種伝達回路にはサボウム国の術式を使用した。
人間らしく関節を動かし、人間らしくものを食べ、眠って回復する。
細々とした機能は、イレフスト国の幅広い応用技術が役に立った。
自分の中に積み上げてきた全てを使って。
国を渡り歩いてきた____だからこそ出来ることだった。
けれど容易に出来ることではなかった。
長い長い年月を要した。
そうして「その日」は来たのだった。
2/25/2025, 9:34:00 AM