弟の誕生日ということで、バイト帰りに弟が欲しがっていたゲームを購入しラッピングも頼んで、落とさないように鞄にきっちりと仕舞って帰宅。
玄関のチョイくたびれた茶色の革靴を見て、父が既に帰ってきているのを確認、ドアの鍵とチェーンをかけた。
ただいまー、とリビングに入ると、直ぐに母が安堵したような声色で「おかえり」と返ってきた。
何故かソファで項垂れている父の側を素通りし、鞄をドサッと床に下ろす。
弟が居ないスキに、カーテンを留める布を引っ掛ける金具のとこにプレゼントを挟んで隠しておく。
ひと仕事終えたぜ、と振り向くと、テーブルの上、サラダや唐揚げ等に紛れて見覚えのあるゲームソフトが置かれているのが見えた。
思わずソファに目を向けると、どでかい溜息を吐く父。
ゲームソフトを手に取り、パッケージをよく見ると真ん中のモンスターのデザインが少しだけ違っていた。
これは、弟が欲しがっていたゲームソフトのかたわれ……通称「じゃないほう」だ!
こんなの見せたら弟ギャン泣きだよぉ、と思っていたら母が首を横に振った。とき既に。
父が鼻を啜る音が聞こえる、第二ラウンドは御免だ、こちとら学校から直接バイトで流石に腹ペコ。
セットにしちゃえば良いじゃん。
これぞ、天の声。
善は急げと綺麗に包装紙を剥がし、父の買ったゲームソフトを重ねて包み直して、涙腺決壊寸前の父に渡す。
部屋で不貞寝していた弟を俵抱きにし、問答無用で食卓に着かせると、涙目の父が持ってきたケーキのローソクの火を、半ば無理矢理に消させる。
お誕生日おめでとう、の「め」位で空腹に耐えきれず、目の前のバラ寿司を口いっぱいに頬張った。
テーマ「それでいい」
4/4/2023, 6:54:41 PM