神埜

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#色とりどり

色とりどりの傘が眼下を過ぎる。

こんな雨降りに上を見上げる奴なんかいやしないから、俺はフェンスを乗り越え、雨に濡れたアスファルトの上に腰を下ろして、最後の煙草に火を付けた。

カチッと音を立てながらライターで火をつける。
大きく息を吸って汚らしい煙を肺いっぱいに吸い込むと、くらりと目の前が回った。

久しぶりのこの感じにちょっとした快感を覚えて、まだ死にたくねぇなぁ、と脳の片隅で思ったが、どうせ元々あと少しの命だ。病気のせいで死ぬぐらいなら、自分で人生を終わらせたい。
なんてことを考えてたら、唇にチリと痛みが走った。
いつの間にか火がすぐそこまで来てたらしい。
俺は水溜まりに燃えさしをジュと押し付けて、その場に立ち上がった。

そのまま1歩足を前に踏み出せば、あとは真っ逆さまに落ちていくだけ。

ーーあっけねぇなあ。人生ってのは。

1/8/2024, 11:49:00 AM