ガコガコと乱雑に、部屋を満たしていた雑貨をゴミ袋に押し込んでいく。かつて思い出だったプラ片が、あっという間にゴミの山に姿。変えてしまった。
2年4カ月。それが、彼と過ごした時間。それだけの時間一緒に暮らして、いつの間にか俺の部屋は彼の色を
色濃く残すようになっていった。
無感動に彼の痕跡を消していく。好きだと言っていたから常備してあった、俺のよりずっと重たい煙草。2人で揃いにしたロケットのペンダントに、シンプルなシルバーの指輪。何もかもが大切で、何もかもが憎かった。
彼は、俺を捨てたんだ。俺は本気だったのに、彼は遊びだった。男同士なのも忘れるくらい、好きだったのに。彼は、ゼミで出会ったぽっと出の女の子にあっさりなびいてしまった。
ぽろぽろと止まらない涙はそのままにして、部屋の中をどんどん空にしていく。彼のことを思い出すようなものを全部捨てたら、俺の部屋からは何も無くなってしまった。
片付けと失恋の痛みで疲れた俺は、殺風景な部屋の中で小さく丸くなって、気絶に近い眠りに身を任せて意識を手放した。
どれくらい眠っていたかわからない。外はもう暗くなっていて、夜の帳はとうに降りきっている。
俺は、インターホンを乱打する音と喧しいノック音で目が覚めた。
「開けろ、おい。勝手に鍵変えただろ。」
何度もドアノブが乱雑に回され、古いマンションの扉はミシミシと悲鳴を上げている。俺は枕で耳を覆って、都合の悪いものは何も聞こえないようにした。
本当は分かっていたのだ。彼は浮気なんてしていないと。これは、ただの俺の癇癪なのだと。
ドアの外が静かになって、俺は泣きながらようやく解放された感覚にふわふわとした心地を覚えた。
心変わりしないうちに、この癇癪が冷めきってしまう前にこの思い出の断片を処理してしまおうと、ゴミ袋に手をかけたその時。
ベランダの窓が開いて、見慣れた彼が戻ってきた。
「あークッソ……マジで締め出しやがって……でも、ココの鍵閉めねぇのは相変わらずなのな。」
彼が勝ち誇ったように笑うから、俺はもう癇癪を起こす気にもなれなくなってしまった。
そっと背中に触れる手を感じながら、俺が壊して手放してしまった、これまで積み上げてきた時間の破片をぎゅっと抱きしめた。
テーマ:手放した時間
11/24/2025, 5:29:44 AM