海野 鈴華

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また出会えたらきみになんて伝えよう。
伝えたいことがたくさんある。
あのとき伝えなきゃいけなかったこともたくさんある。
僕はまだきみに出会う資格がないまま目の前の道を歩き続けるーーー








きみと出会ったのは中学の入学式。
第一印象とかもうとっくに覚えてない。
仲良くなったきっかけとかもわからない。
気がついたら仲がいい友達という認識。


仲良くならない世界線なんてなかったんじゃないかってくらい僕らは気が合う友人だった。
あの頃は毎日が楽しくて、僕らが世界の中心じゃないかってくらい賑やかだった。


周りに人がいてワイワイ話してても、自然と互いの隣が指定ポジションかのように並んでいる。
話が尽きないのかと聞かれても、とてつもなくくだらない話ですら楽しく話せる。
僕らはワンセットのような扱いだった。それが普通の日々だった。







あの日はとてつもなく寒い日で、いつ雪が降ってもおかしくないのではと言われるような日だった。
中学2年生のとき。
きっかけは覚えてない。
ただ、これまでしたことないような大喧嘩をした。
互いに引っ込みがつかなくなってるのを感じていたが、折れることは僕もきみもできなかった。


そんななか売り言葉に買い言葉で僕らは一線を踏み越えた。


「お前なんか嫌いだ!!!」


「ああそうかよ!こっちのセリフだバカ!!!」


その日は別々に帰ったのを覚えてる。
互いに用事がないのに別々に変えるなんて初めてだった。
しかもこの日に限って他の友人とも都合が付かず、1人帰路についた。
歩きながらぐるぐると考えていた。
なんであんなこと言ってしまったんだろう。
僕が素直に途中で謝れば一緒に帰れてたのではないか。
けど、向こうだって悪いところがあるんだから謝るべきじゃないのか。
でも僕がいけないことが多いよな。


1人考えてると思考が負のスパイラルに堕ちていってとめどなくネガティブになっていく。
今日は気持ちの整理がつかないから、明日朝イチで謝ろう。
そう決めて僕は帰宅し早々に就寝することにした。






翌日朝早くに自宅を出る。
家族はいつもと違う僕の様子に気が付いていただろうが、何も聞かずにいつもどおり接してくれてありがたかった。


駆け足で教室へ飛び込む。だが、きみはまだ来ていなかった。
いつ来るかそわそわしながら、登校して来た友人たちと他愛もない話をしながら待つも一向に来ない。
そのうちホームルームの時間となり先生が教室へ入ってくる。
きみはそれでも来なかった。



「ホームルームの前にみんなに伝えなきゃいけないことがある。
〇〇が昨日帰宅途中に交通事故に巻き込まれて入院することになった。
親御さんからは心配いらないのでお見舞い等の気遣いは不要と言伝を預かってるので、押しかけたりしないようにな!

それじゃ連絡事項伝えるぞーーーーー」


きみが事故にあったってところから周りの音が急に遠ざかった。
僕らが喧嘩をしなければ、してたとしてもその場で謝れてれば、一緒に帰宅出来てれば防げたのではないか。
交通事故の原因の一端は僕との喧嘩なのでは…。


その後如何したかはよく覚えてない。
気がついたら放課後になってたくらいの感覚だった。
そんな僕を気遣ってかクラスメイトはそっとしておいてくれた。


「話があるからついて来るように」



放課後、教室を出ようとした僕に先生が声をかける。
連れて行かれたのは生徒指導室。
今日の僕の態度を注意されるのかと、言われても仕方ないなと思っていた。



「お前にだけは伝えておいてほしいとのことだったから伝えるけど、よく聞くように。
〇〇は、外傷こそ軽症なものの意識がないらしい」


意識がない。神様は居ないと思った瞬間だった。


「〇〇のご両親が仲の良かったお前にはって希望で病院の場所も聞いている。
向かうときは周りの奴らに伝えずこっそり行くように」









そこからの僕は行動が早かった。
先生から病院の場所を聞くと一目散に病院に向かった。
病室の前で自分が入室していいのか、ご家族と会ったことないけどなんて声を掛ければいいのだろうかと、うだうだ悩んでいるとガラッとドアが空いた。


「〇〇の仲がいいお友達よね?
先生から聞いて来てくれたのかしら。よかったら顔を見てあげてちょうだい」


おそらくお母さんだろう女性が僕を見て招き入れる。


「来てくれたところ申し訳ないのだけど、まだ意識が戻らなくて顔を見てもらうしかできないのだけれどそれでもよければ話しかけてあげて」


僕は言われるがまま部屋に入る。
息が詰まる。
生きてるのに生きてないように見えるアイツ。
このまま目を覚まさなかったら…なんて想像したくないことを思ってしまう。


「眠ってるみたいでしょ。お医者様が言うには外傷的要因ではなく、精神的要因で意識が戻らないそうよ」


思考してる中で急にかけられた声にビクッと身体が震える。


「ご…めんなさ、い…。
昨日僕が喧嘩なんてっ、しなければ…一緒に、帰っていたら…こんなことには、ならなかったかもしれないの…に、
ごめんなさい…ごめっ、なさ…」



言葉が喉に張り付いてうまく出ない。
言葉を紡ぐたびにぼろぼろと涙が溢れる。



「…道に飛び出した子供を助けるために車道へ飛び出したって警察の人が言ってたわ。
子供は無事で誰も大怪我をしない事故だったって。
この子のお陰だって。
あなたと喧嘩したから事故にあった訳ではないから、そこは気に病まないでちょうだいね。


あなたと会ったら、目が覚めるかもっていう私のエゴなのよ。ごめんなさいね。」



目に涙を溜めながら気丈に振る舞う〇〇の母。
僕はそれを見て決めた。


「…あの、迷惑でなければ毎日顔を見に来てもいいですか?
僕、目が覚めた彼に喧嘩したことを僕から謝りたいんです」


「迷惑も何も、きっとこの子も喜ぶわ。
けど、あなた自身の時間を消費することないのよ。
時間があるたまにでいいからね」









それから僕は毎日毎日、時間が許す限り顔を見に行った。
その日の天気、テストの点数、授業中の面白かったこと、いろんなことを話した。
きみはまだ起きなかった。


「今日は修学旅行について相談したよ。
僕と同じ班になるようにしてもらったから、一緒に行こうな」



そんな他愛無く希望を込めた話を毎日する。
喧嘩をした寒い日から季節が2つ、変わろうとしていた。















僕は全部、話を楽しく聞いていた。
僕の方こそ謝りたかった。
今までの楽しい日々を喧嘩なんてピリオドで終わらせない。終わらせたくない。
僕はきみにもう一度出会うためにひたすら目の前の道を歩く。
きっと終着点について、目を開けたらきみの驚く顔が目の前に広がると信じてーーーーー。





【奇跡をもう一度】

10/2/2024, 12:29:03 PM