summer

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小さな命
(という題とは少しずれる



真夜中に、本を読んでる机の上を、ちっちゃな人が歩いていった。
大事に使って短く禿(ち)びた鉛筆くらい。ちっちゃなかわいい顔で、ちっちゃなゴム長を履き、古びた緑のコートの襟を立てて。
そんなのがトコトコと、釣り竿かついで歩いていく。

「どこへ行くの」と訊いたら私のミルクティのカップを指さす。見ていると、釣り糸の先をぽちゃんと投げこんだ。
金柑色のちっちゃな浮きが浮いている。

待つことしばし。ワッとちいさな声を上げ、ちっちゃな人は竿を引いた。
たぷんとミルクティのしずくが跳ねる。
ひとさし指の爪くらい……竿の先にはずんぐりした、おもちゃみたいなブルーグリーンの魚がかかって、ぱたぱたと尾を動かした。

ちっちゃな人は私に手を振り、魚を抱えて帰っていく。机の端でぴょんと跳んで見えなくなった。

少しためらってミルクティのカップを手にした。まだ暖かくていい香りがした。
夢かしら。あの魚はどこから来たのかな。
──と、口をつけてみたらなんてこと、ミルクティがちっとも甘くなくなっている。ああと思ったがもう遅い。あれは私が紅茶に溶かした、魚の形のお砂糖じゃないか。
やられたなあ。ちっちゃな釣り人は、夜のおやつを釣りにきたものらしい。

2/24/2023, 10:44:57 AM