放課後
グラウンドの隅に蛙がいた。先程から身動き一つしない。何かを待っているのか、はたまた次の行動を考えているのか、その細い目から読み取ることはできない。
ランニングウェアの女子たちが姿を見せた。大半は練習メニューを持っている方へ寄っていく。が、うち何人かは俺らの方へやってきて声をかけた。
「先輩たち、学年集会終わらないんだって」
「まじか。しばらく練習始まらんな」
「何の話してたの?」
「いや、こいつが水族館行きたいとか言い出してさー」
「あ、最近できたとこ? いいよね、行きたいよねー」
結局、その場の男女数人どうしで遊びに行くことになる。俺はまんざらでもなかったが、隣で楽しそうにしているあの子を見ていると、二人で誘いたかったなという欲が出る。もちろん、この場で言えたものじゃない。学校ではいつだって周囲の目がある。二人きりになるタイミングなんて、そうそうないものだ。
楽しみだね、と話が続く。俺は上機嫌の男どもに話を任せて、またグランドの隅を見やった。やはり蛙はまだそこにいた。相変わらずじっとしたままだ。少し変化を期待した自分を意識した。
「何見てんの?」
あの子が尋ねたので、俺は視線を戻す。
「いや別に。そのシューズいいな。買った?」
「そうなの! いいでしょ」
その時、号令がかかった。場は解散になり、今日も練習が始まる。
何かが変わりそうで変わらない、いつもの放課後。
10/12/2024, 4:00:09 PM